全国では築20年以上の中小ビルが多数存在し、老朽化や機能不足が不動産市場の課題となっています。
特に、遵法性の確保や環境性能の向上、防災対応といった観点で、改修によるストック活用の重要性が高まっています。
こうした状況を受け、国土交通省は中小ビルを対象に、社会課題に対応した改修によるバリューアップを促進する調査事業を進めています。
本事業は、改修の具体像や効果を可視化し、市場全体への波及を図ることを目的としているとのことです。
新たな動き

国土交通省は令和7年12月26日、「中小ビルのバリューアップ改修投資の促進に向けたモデル調査事業」第2期の採択結果を公表しました。
第2期では、改修を予定する中小ビルを対象とした「改修提案」と、すでに改修を行った「既改修事例」の2区分で募集が行われました。
その結果、改修提案5件、既改修事例7件の計12件がモデルとして採択されています。
対象となる中小ビルは、延べ床面積3,000㎡未満、築20年以上、住宅以外の用途という要件を満たしています。
課題

中小ビルの改修においては、複数の課題が同時に存在しています。
検査済証が取得されていない建築物や、法令への不適合が残る物件は、流通や活用の妨げとなりやすい傾向があります。
また、老朽化した設備や低い環境性能は、賃料競争力や入居需要の低下につながる要因となっています。
こうした課題に対し、単なる修繕ではなく、社会的価値と経済的価値を両立させる改修が求められています。
取り組み
今回採択されたモデルでは、遵法性の確保や耐震補強、省エネルギー性能の向上といった基本的な改修に加え、ウェルネスや地域との関係性を意識した工夫が多く見られます。
空調や照明設備の高効率化、環境認証の取得を通じて、環境性能を可視化する取組も含まれています。
さらに、共用ラウンジやセットアップオフィスの導入、用途変更による新たな使い方の提案など、入居者の利便性や働き方の多様化に対応する事例も採択されています。
これらの取組は、他の中小ビルにも応用可能なモデルとして位置付けられています。
展望
中小ビルの改修は、空きビル対策や都市の更新だけでなく、不動産市場全体の流動性向上にも寄与すると考えられます。
今回のモデル調査事業を通じて、改修による効果や投資の考え方が整理されることで、民間投資の呼び水となることが期待されます。
今後は、用途を限定しない柔軟な改修や、地域ニーズを踏まえた価値創出が一層重要になると見られます。
中小ビルのストック活用は、持続可能な都市づくりにおける重要なテーマであり続けます。
住まキャリの見解
住まキャリの見解では、今回の採択結果は、中小ビル改修が「老朽対策」から「価値創出」へと進化していることを示していると捉えています。
遵法性や環境性能といった基本要素に加え、ウェルネスや地域性を取り込む視点は、今後の不動産活用において不可欠といえるでしょう。
こうした改修を実行するためには、不動産、建築、金融、環境分野を横断する知見が求められます。
中小ビルの再生分野は、今後も専門性を活かせるキャリア領域として広がっていくと考えられます。
参照元:国土交通省 不動産・建設経済局 不動産市場整備課「中小ビルのバリューアップ改修投資の促進に向けたモデル調査事業」第2期採択モデルの決定(令和7年12月26日公表)


